着床前診断(PGT-A/PGT-SR)
着床前診断(PGT-A)とは?
体外受精で胚移植を繰り返してもなかなか成功しない場合、真っ先に
「子宮内膜に問題があるのではないか?」
「着床させにくい子宮内膜なのではないか?」
と、子宮内膜側に原因を求めたくなってしまう気持ちが先立つかと思いますが、最新の生殖医学ではこの考え方は概ね否定されていて
「着床が起こりにくい場合、内膜側に原因があるケースは極めて稀で*、主因は主に胚側にある」
ことが明らかになってきています[1]。
「胚側の着床不全の原因」
とは、主に胚(受精卵)の染色体異常であろうと考えられています。
(*子宮内膜ポリープ・粘膜下筋腫・卵管留水種などの古典的な着床障害の原因は当然ながら否定された上で、ということです。)
具体例をお示しいたします。
(本データーは当院卒業患者様のデーターで、情報公開のご同意を頂戴しております)
この方は、この採卵周期で4個の移植可能胚盤胞を得られましたが、そのまま胚移植したのではなく、得られた4個の胚盤胞の染色体を調べてみたというわけです。
この検査が俗に「着床前診断**」と呼ばれているものです。
(**正確には「着床前胚染色体異数性検査」)

ご覧の通り、得られた4個の胚盤胞のうち3個はそもそも染色体異常の胚で、染色体が正常なものは1つしかありませんでした。
この方は本検査の結果、染色体異常胚3個は移植せず破棄し、正常胚のみを胚移植し、結果無事ご出産なさいました。
このように、胚盤胞まで到達しているのに(しかも形態良好胚盤胞)、中身は実は染色体異常胚というのはヒトの場合相当な割合で起きている現象であることが知られています。
このような胚盤胞の染色体異常率は女性側の年齢とともに上昇することが知られていますが、今日現在、保険診療の体外受精ではこの検査は行われてはいませんので、
「染色体異常胚を(それとは知らぬままに)戻している」
状態なわけです。
特に38歳以上では、このような「染色体異常胚の移植」を繰り返している状態こそが「反復着床障害」として臨床症状に出てきているのだろうとされています。
PGT-Aのメリット・デメリット
こう聞くと魔法のような検査と感じるかもしれませんが、今のところ
「この方が実施すれば絶対に得をする」
という患者さん群(サブグループと言います)は明らかになっていません。
<PGT-Aのメリット>
- 正常胚が得られさえすれば、その胚移植の成績は極めて良好です
(但し100%ではありません。正常胚でも着床しなかったり、流産することがあります) - 特に38歳以上の方で、おそらく妊娠までの時間を短縮できるであろうとされています[2]
- 妊娠までの総胚移植回数を減らすことができると考えられます
<PGT-Aのデメリット>
- 正常胚がなかなか得られず、なかなか移植までたどりつかない場合があります
- 検査で「移植に適さない胚」と判定された胚でも出生に繋がる可能性があることが指摘されています
- 検査を実施できる方の条件が定められています(後述)
- 今日現在は自費診療で、保険診療と併用することができません
PGT-SRとは?
主に不育症の原因検索の結果、ご夫婦のどちらか(ごく稀に両方)に相互転座と呼ばれる状態が認められた方が適応とされています。
(相互転座のご夫婦が絶対にPGT-SRが必要、というわけではございません)
検査方法は基本的にはPGT-Aと同様になります。
PGT-Aの実施条件
<施設条件>
PGT-A/SRの実施施設は日本産科婦人科学会による認定制となっております。
<患者条件>
日本産科婦人科学会の定めにより、以下に該当する患者様が対象となります。
- 体外受精にて胚移植を行うも、2回以上不成功の既往がある場合
- 2回以上の流死産の既往がある場合(但し生化学妊娠(いわゆる「化学流産」)は含めません)
PGT-Aの費用
検査費用(自費)一胚あたり | 82,500円(税込) |
着床前診断(PGT-A/-SR)をご検討の方へ
検査が実施できるか?利点がありそうか?などのご相談は、
<当院患者様の場合>
ネット再診予約>計画作成(要医師指示)枠でご予約の上ご受診ください(この際、ご夫婦でご来院いただいても構いません)
<当院患者様以外の場合>
先ずは当院初診の上ご相談ください(初診は奥様のみのご来院でお願いいたします)
初診予約はこちら
[1]Recurrent implantation failure: reality or a statistical mirage? Fertil Steril 120(1): 45-59; 2023
[2] The impact of PGT-A on time to live birth in IVF. Fertil Steril 2025