胚移植とは
胚移植(Embryo Transfer:ET)とは体外受精や顕微授精によって得られた受精卵(胚)を、子宮に戻す処置のことをいいます。排卵後3~5日目に、形態良好胚を細いチューブを使用して子宮内へ移植します。この処置では、ほとんどの方に痛みはなく麻酔の必要はありません。
当日の流れ
① 診察
超音波で子宮の状態が胚移植に適している状態であることを確認します。
② 胚の吸引
胚培養士が移植する胚を胚移植専用の細くてやわらかいカテーテルで吸い上げます。
③ 胚を子宮内に移植
医師が超音波で子宮内を観察しながら、子宮内の着床しやすい子宮底から1~2cmの位置に胚を移植します。
痛みはほとんどなく、5~10分程度で終了します。
④ 処置後
処置後の安静は必要ありません。会計後、そのままご帰宅いただけます。
胚移植不可能な場合
以下のような場合、胚移植がキャンセルとなる場合があります。
- 新鮮胚移植を計画したものの、OHSSを起こす(増悪させる)可能性が高い場合
- 出血や感染などにより、胚移植や妊娠が身体的リスクとなった場合
- 新鮮胚移植を計画したものの、子宮内膜が薄かったり、ホルモン値が不良のため、妊娠成立の可能性が凍結胚移植と比べ低いと判断された場合
キャンセルが生じた場合には、原因を検討して治療計画を立て直すことになります。
「新鮮胚移植」と「凍結融解胚移植」の違い
胚移植は、移植する時期によって採卵した月経周期内に移植する「新鮮胚移植」、胚を凍結しておき別の月経周期で融解して移植する「凍結融解胚移植」に分類されます。
新鮮胚移植
採卵した周期に受精卵を移植する方法を「新鮮胚移植」と言います。
採卵術で卵子を採取し、顕微授精(ICSI)や体外受精(IVF)などにより受精、培養した胚を凍結することなく子宮内へ移植します。
凍結融解胚移植
受精卵を凍結し、次周期以降に移植する方法を「凍結融解胚移植」と言います。
胚を凍結する場合は、採卵した胚をすべて凍結する「全胚凍結法」と、新鮮胚移植時に余った胚を凍結する「余剰胚凍結」があります。
利点 | 欠点 | |
新鮮胚移植 |
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凍結融解胚移植 |
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凍結融解胚の移植周期について
凍結した胚を融解して胚移植するには、女性が排卵し、ホルモンが十分でなければいけません。どの成長段階で胚を凍結したかによっても移植のタイミングは異なり、月経周期(排卵日)と胚の日齢を一致させる必要があります。この日齢の合わせ方には「自然排卵周期」と「ホルモン補充周期」があります。
自然排卵周期
自然排卵周期は、月経周期が整っている方を対象にした方法です。自然な排卵に合わせて排卵日を特定し、胚移植日を決定します。ホルモン剤などを使用せず、薬剤を使用するとしても排卵を確実にするためのトリガー(きっかけづくり)としてhCG注射や点鼻薬を用いる方法で、限りなく自然に近く、副作用や費用の負担が軽微で済むのがメリットです。
一方で、排卵日を特定するために頻繁に通院する必要がある、胚移植の日程調整が難しい、スケジュールに融通がきかないといったデメリットもあります。
ホルモン補充周期
ホルモン補充周期は、自然周期に近いホルモン環境を卵胞ホルモン剤で補い、子宮内の環境を整えた上で胚移植をする方法です。月経不順・無月経・卵巣および黄体機能不全の方に適しています。
月経後、卵胞ホルモン剤を内服し、子宮内膜を厚く調整。子宮内膜が8mmを超えた時点で黄体ホルモン剤の内服を開始し、その日を1日目とし、3~5日目に凍結融解胚移植をします。胚移植を行うスケジュールに融通がきき、通院回数が少なくて済むことがホルモン補充周期のメリットです。
初期胚移植と胚盤胞移植の違い
胚移植は、移植する胚の状態によって「初期胚移植」と「胚盤胞移植」に分類されます。
初期胚移植
採卵から2~3日間培養した受精卵を初期胚と呼びます。この初期胚を移植することを初期胚移植といいます。培養は受精卵にとって少なからずストレスとなるため、胚盤胞になる前に元気のない受精卵は発育を停止してしまうことがあります。その点、初期胚移植の場合は胚盤胞への発育を待たずに移植するため、移植キャンセルとなる可能性が低いです。一方で、着床直前の胚盤胞まで発育することを確認せず移植しているため妊娠率が胚盤胞移植と比較して低いことが欠点です。
胚盤胞移植
採卵から5~6日間培養した受精卵を胚盤胞と呼びます。この胚盤胞を移植することを胚盤胞移植といいます。着床直前の胚盤胞を移植するため、初期胚移植と比較して、妊娠率が高いです。一方で、胚盤胞まで発育せずに移植がキャンセルとなってしまう可能性も高くなります。
胚移植のリスク
子宮外妊娠
異所性妊娠(子宮外妊娠)の発生する確率は3–5%と自然妊娠よりも数倍高いと言われ、手術が必要となることがあります。
2個以上の胚を移植した場合、子宮内外同時妊娠が起こる可能性がありますが、極めてまれです。
多胎妊娠
日本産科婦人学会ガイドラインでは、移植できる胚の数は原則として1個とされております。
胚移植を複数回施行しても着床に至らない場合(反復不成功例)や35歳以上では、例外的に2個までの胚移植を認めています。
2個胚移植を行うと、継続妊娠例の約25–40%が双胎(ふたご)になるという報告があります。なお、1個胚移植×2回と2個胚移植×1回の累積出生率に差はないことが報告されています。