体外受精・顕微授精とは
高度不妊治療(生殖補助医療:ART)は、卵子と精子を体外で受精させ、育った受精卵(胚)を子宮に戻す治療です。
体外受精(IVF)は、採取した卵子と精子を培養液の中で自然に受精させる方法です。一方、顕微授精(ICSI)は、1個の精子を細いガラス針で卵子の中に直接注入して受精させる方法で、受精が起こりにくい場合などに行われます。受精後は受精卵を数日間培養し、発育の良い胚を子宮内に移植します。
体外受精・顕微授精の対象
高度不妊治療(ART)が適している方
- タイミング法や人工授精を3~6回以上行っても妊娠しない方
- 原因不明不妊の方
- 卵管が詰まっている、または卵管機能に問題がある方
- 子宮内膜症の方
- 多のう胞性卵巣症候群(PCOS)など排卵障害のある方
- 卵巣予備能(AMH)が低下している方
- 35歳以上など、年齢による妊娠率の低下がみられる方
- 抗精子抗体陽性など免疫性不妊の方
- 男性不妊の方
- その他、医学的に体外受精・顕微授精が必要と判断された方
体外受精(IVF)が適している方
- 精子の数や運動率が良好な方
- 卵子と精子を自然に近い形で受精させたい方
顕微授精(ICSI)が適している方
- 精子の数が少ない、運動率が低い、または正常形態率が低いなど男性不妊の方
- 過去に受精障害が認められた方
- 通常の体外受精で受精しなかった方
- 採取できる精子数が少ない方や、凍結精子を使用する方
体外受精・顕微授精の流れ
実施前検査
体外受精・顕微授精を安全に行うため、婚姻状況・保険診療の適用条件の確認、健康状態の確認、血液検査・感染症検査を行います。
卵巣刺激・トリガー施前検査
卵巣刺激とは、排卵誘発剤を使用して複数の卵胞(卵子)を育てる治療です。
自然周期では通常1個しか排卵されない卵子を複数育てることで、体外受精に必要な卵子を採取します。将来の卵子が減ることはなく、卵胞が十分に育ったら「トリガー」と呼ばれる薬で卵子を成熟させ、採卵を行います。

当院では、卵巣への負担と採卵できる卵子数のバランスを考え、一人ひとりに適した排卵誘発を行っています。年齢やAMH(卵巣予備能の目安)、これまでの治療経過、卵胞の発育状況などを総合的に判断し、クロミフェン(レトロゾール)+hMG法(中刺激法)、PPOS法、クロミフェン法、などの中から、患者様に最適な方法をご提案します。
採卵
採卵とは、体外受精や顕微授精に使用する卵子を卵巣から採取する処置です。手術室で局所麻酔または静脈麻酔を行い、経腟超音波で卵胞の位置を確認しながら、専用の採卵針を腟から卵巣へ挿入し、卵胞液とともに卵子を採取します。

受精(体外受精・顕微授精)
採卵した卵子と精子を体外で受精させる方法には、主に3つの方法があります。
⑴ 体外受精(コンベンショナルIVF、媒精法)
⑵ 顕微授精(ICSI)
⑶ スプリットICSI
⑴ 体外受精
(コンベンショナルIVF、媒精法)
採卵した卵子と調整した精子を同じ培養液の中に入れ、精子の力で自然に受精させる方法です。

⑵ 顕微授精(ICSI)
顕微鏡下で採卵した卵子に選別した1個の精子を細いガラス管で卵子の中に直接注入して受精させる方法です。整した精子を同じ培養液の中に入れ、精子の力で自然に受精させる方法です。

⑶ スプリットICSI
スプリットICSI(Split ICSI)とは、1回の採卵で得られた卵子を2つに分け、一方は体外受精(IVF)、もう一方は顕微授精(ICSI)を行う方法です。
【併用可能な先進医療】
・PICSI(生理学的精子選択術):
成熟した良好な精子を選んで顕微授精(ICSI)を行う方法です。
成熟した精子だけが結合するヒアルロン酸を利用することで、より質の高い精子を選別できる可能性があります。
・IMSI(強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術):
通常より高倍率の顕微鏡で精子を詳しく観察し、形態の良い精子を選んで顕微授精(ICSI)を行う方法です。
より良質な精子を選択できる可能性があります。
・ZyMot(膜構造を用いた生理学的精子選択術):
精子が自ら泳いで通過する特殊なチップを用いて、運動性が高く良質な精子を選別する方法です。
DNA損傷の少ない精子を回収できる可能性があります。
培養
培養とは、受精卵を胚盤胞という妊娠しやすい段階まで育てることです。
【併用可能な先進医療】
・タイムラプス培養:
培養器内のカメラで受精卵を24時間連続撮影しながら培養する方法です。培養器から取り出さずに発育を観察できるため、受精卵への負担を減らすことができます。また、発育の様子を詳しく確認し、移植すべき適切な胚を選ぶことができます。
胚移植
胚移植とは、培養によって得られた胚を子宮内に戻す処置です。超音波で子宮内の様子を確認しながら、細いカテーテルを用いて子宮内に戻します。

【併用可能なオプション治療】
・アシステッド・ハッチング(AHA)
受精卵を覆う殻(透明帯)の一部に小さな穴を開け、胚が殻から出やすくする方法です。胚は殻から出て子宮内膜に着床するため、その過程を助けることで着床しやすくなることが期待されます。

・高濃度ヒアルロン酸含有培養液
受精卵を覆う殻(透明帯)の一部に小さな穴を開け、胚が殻から出やすくする方法です。胚は殻から出て子宮内膜に着床するため、その過程を助けることで着床しやすくなることが期待されます。

【併用可能な先進医療】
・SEET法(子宮内膜刺激胚移植法):
胚を培養した際の培養液(SEET液)を胚移植前に子宮内へ注入し、着床しやすい環境を整えることを目的とした方法です。
・子宮内膜スクラッチ(子宮内膜擦過術):
子宮内膜に小さな傷をつくり、着床しやすい環境と整えることも目的とした方法です。
【併用可能な自費検査】
・着床前遺伝学的検査(PGT-A/PGT-SR):
体外受精で得られた受精卵(胚盤胞)を子宮に移植する前に、その染色体に異常がないかを調べる検査です。
妊娠判定
胚移植後10~14日頃に、血液検査または尿検査(hCG)で妊娠判定を行います。妊娠が確認できた後は2回程度ご来院いただき、赤ちゃんの心拍を確認した時点で分娩施設への紹介状をお渡しし、当院での不妊治療は卒業となります。
スケジュール例
PPOS法で卵巣刺激し、採卵を行う場合のスケジュール例

自然周期(ご自身の自然な月経周期に合わせて排卵日を確認し、最も適したタイミングで凍結胚を移植する)に合わせて、凍結胚移植を行う場合のスケジュール例

費用
保険診療では、診察料・検査料・薬剤費・処置料などを診療内容に応じてご負担いただきます。体外受精1周期あたりの自己負担額は、一般的に約10万~20万円ですが、治療内容によって異なります。
なお、先進医療、選定療養、妊娠判定日以降の診療は自費診療となります。高額療養費制度をご利用いただくことで、自己負担額を軽減できる場合があります。
自費診療の費用は料金表に基づいて算定します。また、体外受精・顕微授精・凍結融解胚移植で妊娠され、不妊治療をご卒業される際には成功報酬を頂戴しております。
詳しい費用については、料金表をご覧ください。
よくある質問
A.保険診療で生殖補助医療を行う場合は、採卵から胚移植までの一連の治療を保険診療のルールに沿って進める必要があり、治療の途中で保険適用外の診療を組み合わせることは原則としてできません。そのため、実施できる検査や治療内容には一定の制限があり、また、治療開始時の年齢や胚移植回数にも要件が設けられています。
保険適用の要件
| 保険適用の要件 | 治療計画の作成日時点で43歳未満の方 |
| 回数制限 | 40歳未満 通算6回まで(胚移植) 40歳以上43歳未満 通算3回まで(胚移植) |
A.保険診療による生殖補助医療では、原則として保険診療と自費診療を組み合わせることはできません。ただし、先進医療や凍結胚の保存延長料、凍結胚の移送費用、保険診療の年齢・回数制限に到達した後の凍結胚移植などは、例外的に保険診療との併用が認められています。
また、保険診療による治療を終了した後に自費診療へ移行し、その後、保険診療の要件を満たす場合には、あらためて保険診療を受けることも可能です。
A.先進医療とは、厚生労働省が安全性・有効性を確認し、保険診療と併用できる医療技術です。妊娠率の向上が期待できる場合がありますが、費用は自己負担となり、すべての方に必要な治療ではありません。とも可能です。
A.当院では、以下の治療・検査を提供しています。
先進医療
- PICSI
- IMSI
- ZyMot
- タイムラプス培養
- SEET法
- 子宮内膜スクラッチ
- ERA/ERPeak検査
- EMMA/ALICE
- 子宮内膜フローラ検査
- β2GP1ネオセルフ抗体検査
オプション治療
- アシステッド・ハッチング(AHA)
- 高濃度ヒアルロン酸含有培養液
オプション検査
- 着床前遺伝学的検査(PGT-A/PGT-SR)
A.採卵は通常、局所麻酔で行い、所要時間は5~10分程度です。採卵数が多い場合や、ご希望がある場合には静脈麻酔で行います。
A.採卵後は回復室で約1時間お休みいただき、麻酔からの回復や出血などに問題がないことを確認してからご帰宅いただきます。仕事に復帰される方もいますが、採卵当日はできるだけ安静に過ごすことをおすすめします。
A. はい。保険適用には年齢や回数の条件があります。
- 40歳未満で治療を開始した場合:胚移植6回まで
- 40歳以上43歳未満で治療を開始した場合:胚移植3回まで
なお、採卵は胚移植が可能な限り、回数制限なく保険適用となります。
保険適用の要件
| 保険適用の要件 | 治療計画の作成日時点で43歳未満の方 |
| 回数制限 | 40歳未満 通算6回まで(胚移植) 40歳以上43歳未満 通算3回まで(胚移植) |
A.人工授精は、運動性の高い精子を子宮内に注入し、卵管内での自然な受精を目指す治療です。そのため、精子と卵子が出会い、受精卵が子宮まで運ばれる機能が必要となります。
一方、体外受精は、卵子と精子を体外で受精させ、培養した受精卵(胚)を子宮内に戻す治療です。受精から胚の発育までを体外で行うため、妊娠に至るまでの過程の一部を補うことができ、人工授精より高い妊娠率が期待できます。
A.体外受精(IVF)は、精子に受精を任せる方法(自然に近い受精)で、 顕微授精(ICSI)は顕微鏡下で精子を卵子へ直接注入する方法(男性不妊や受精障害に有効)です。
| 項目 | 体外受精(IVF) | 顕微授精(ICSI) |
| 受精方法 | 卵子と精子を同じ培養液に入れ、精子が自然に受精する | 顕微鏡下で選んだ1個の精子を卵子へ直接注入する |
| 適している方 | 精子数・運動率が良好な方、自然に近い受精を希望する方 | 精子数・運動率が低い方、受精障害がある方、IVFで受精しなかった方 |
| 受精率 | 約70% | 約75% |
| メリット | ・卵子への負担が少ない ・自然に近い受精が期待できる | ・精子が少なくても受精が期待できる ・精子自身の受精能力に左右されにくい |
| デメリット | 受精障害があると受精しないことがある | 精子を直接注入しても受精しないことがある |
| 精子の条件 | 十分な精子数・運動率が必要 | 少ない精子や運動率が低い場合でも実施可能 |
| 受精の仕組み | 精子が自力で卵子に侵入する | 医師・培養士が精子を卵子へ注入する |
A.医師が超音波で子宮内の様子ナ確認しながら、細いカテーテルを用いて胚を子宮内へ戻します。胚は着床しやすいとされる子宮の奥(子宮底から1~2cm程度の位置)に移植します。移植に伴う痛みはほとんどなく、多くの場合は麻酔を必要としません。処置は5~10分程度で終了します。
新鮮胚移植と凍結融解胚移植の違い
| 新鮮胚移植 | 採卵後、胚を凍結せず同じ周期に移植します。 採卵から妊娠までの期間が短いのがメリットです。 |
| 凍結融解胚移植 | 胚を一度凍結保存し、子宮内膜の状態が整った周期に融解して移植します。 子宮内膜の状態が良いタイミングで移植できるため、妊娠率の向上やOHSS(卵巣過剰刺激症候群)の予防が期待できます。現在の標準的な方法です。 |
当院の方針
・基本的には、全胚凍結後の凍結融解胚移植をおすすめしています。
・医学的に適している場合は、新鮮胚移植を行うこともあります。
・移植する胚は原則1個(単一胚移植)とし、多胎妊娠のリスクを減らします。
・移植方法や時期は、胚の状態や患者様の年齢・治療経過などを総合的に判断して決定します。
A.保険診療で体外受精・顕微授精を継続中の方は、凍結胚保存の更新も保険適用となります(診察予約が必要です)。一方、妊娠などにより通院を終了された場合や、自由診療で凍結した胚を継続して保存する場合は、自由診療での更新となります。
自由診療での凍結保存管理費用(1年間)(税込)
・7個以上:77,000円
・1個:39,600円
・2~6個:66,000円
A.体外受精・顕微授精は安全性の高い治療ですが、いくつかのリスクがあります。排卵誘発により卵巣が腫れる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や、採卵に伴う出血・感染などの合併症がまれに起こることがあります。また、子宮外妊娠など妊娠に伴うリスクや、顕微授精では一部の男性不妊に関連する遺伝的要因がお子さんに受け継がれる可能性が指摘されています。これらのリスクをできるだけ減らすため、当院では単一胚移植を基本とし、患者様の状態に応じて安全性に配慮した治療を行っています。
A.治療を開始しても、患者様の安全性や治療効果を考慮し、採卵や胚移植を中止(キャンセル)する場合があります。
主な理由は以下のとおりです。
- 卵胞の発育が不十分な場合
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高い場合
- 排卵してしまった場合
- 採卵しても卵子が採取できなかった場合
- 受精しなかった場合や、胚が十分に発育しなかった場合
なお、治療が途中で中止となった場合でも、実施した診察・検査・投薬などの費用は発生します。また、採卵を実施した場合は、卵子が採取できなかった場合でも採卵費用がかかります。一方、採卵や胚移植を実施しなかった場合は、それぞれの処置費用はかかりません。

